相続登記の必要性

相続登記の必要性

「遺贈と登記」のところで説明したように、相続の場合には二重譲渡の心配はありません。相続開始後、亡くなった方が相続人以外の人に譲渡することはあり得ないからです。

では、先ほどの例で、もしBが友人にマンションを売却せず、自分の名義で相続登記をしただけだったらどうなるのでしょうか。

それはつまり、「A氏から愛人のK子へ」「A氏から相続人のBへ」という二重譲渡類似の状態になり、二重譲渡があった場合には登記があるほうが優先することになるのだから、BがK子に優先するためには、やはり相続登記はしなければならないのではないかという疑問があるかもしれません。

ところが、この場合はBが相続登記を備えたか否かにかかわらず、結局K子が優先されることになります。なぜなら、既に述べたように、BはA氏の相続人であり、A氏の権利義務をすべて引き継いでいる、つまり、A氏がK子へマンションを譲るという遺言をしたわけで、相続人のBは、A氏と全く同じ立場に立って、その遺言の実現に協力しなければならないからなのです。

では、二重譲渡という危険の考えにくい、相続を原因として不動産を取得した場合、登記は必要ないのでしょうか。

確かに、遺贈の場合ほど急務というわけではありませんが、必要がないとはいえません。

二重譲渡ほどドラマチックではないものの、そこにはより現実的な理由があります。

それは、相続登記をせずに長期間放置しておくと、次に登記をするときに手続きが非常に面倒になるからです。

仮に相続人4人で土地を相続したとします。相続が開始した直後であれば、相続登記の手続も簡単です。登記には戸籍や住民票が必要になりますが、そういったものも4人分あればいいわけです。

ところが、登記をしないで数年放置しておいたところ、相続人のうち1人が亡くなってしまいました。そして、その人にはまた4人相続人がいたとしたら、その土地に権利を持つ人は合計7人になるわけです。そして数年放置したところ、さらに1人亡くなって、その人には10人もの相続人がいたとしたら…。

これは何も極端な例ではなく、よくあるケースなのです。

結局、相続登記をせずに長年放置しておくと、その土地に権利を持つ人の数はどんどん増えていくかもしれませんし、その土地に権利を持つ人同士が一度も会ったことがないばかりか、名前すら聞いたことがないなんていうことにもなりかねません。

そしてあるとき、その土地を売却しようなどということになった場合、大いに困るわけです。

売却するにはその前提として、相続登記が不可欠ですから、その際には必要な書類を集めるだけでも一苦労ですし、中には連絡が取れない人や、印鑑を押してくれない人、売却に反対の人などが必ずといっていいほど出てきます。

そういったことを考えると、相続登記はできるだけ速やかに行うことをおすすめします。