養育費のための給料差押え2

給料の差押えは、それほど難しい手続ではありませんが、書類の作成が少々めんどうなのと、実際に手続を行う際には、ある程度、専門的な用語を理解している必要があります。

この記事では、それらについて簡単にまとめておきます。

抑えておくべき用語解説

まずは、給料の差押えで是非とも抑えておきたい用語を解説します。

債権者・債務者・第三債務者

どれも似たような語感ですが、これがわからないと裁判所から来た書類の意味が理解できないなんてことにもなりかねませんので、しっかり区別してください。

まず、債権者というのは、養育費を請求する人です。差押えをする人です。

次に、債務者というのは、養育費を請求される人です。差押えをされる人です。

そして、第三債務者というのは、債務者が勤めている会社など、給料を支払う人です。

債権差押命令

簡単に言うと、「給料を差し押さえてOK」という裁判所の許可です。

給料の差押えは、「債権差押命令申立書」というのを裁判所に提出します。

つまり、「給料差押の許可を申し立てる」という意味です。

裁判所の許可が出たときには、「債権差押命令が発令された」というふうに使います。

債務名義

公正証書や調停調書のことです。

つまり、強制執行ができる根拠となる書類で、他には、判決書や審判書、支払督促などがあります。

「名義」という単語に違和感を覚える方も多いと思いますが、そういうものだと理解してください。

差押え時に集める書類

次は、差押え手続に取得しなければならない書類です。

ちょっと種類が多いので、実際に自分で手続をするときには、何と何が必要なのかをきっちりと把握してから、始めるようにしましょう。

執行力のある債務名義

債務名義に執行文というのをくっつけると、執行力のある債務名義になります。

通常、調停調書に執行文はいらないですが、公正証書や判決には必要です。

執行文は、公正証書の場合は公証役場で、判決書の場合は裁判所で出してくれます。

送達証明書

公正証書や調停調書を、相手方にも送付しましたよという証明書です。

これも公証役場や裁判所で出してくれます。

代表者の資格証明書

第三債務者は会社であることが多いので、その会社の社長は誰かということを明らかにするために、会社の登記事項証明書が必要です。

これは法務局で取れます。

第三債務者が会社ではなくて、個人事業主の場合には不要です。

住民票・戸籍謄本等

債権者または債務者の氏名や住所が、公正証書などが作成された時と今とで違っている場合には、同一人物であることを証明するために、住民票や戸籍を提出しなければなりません。

自分で作成する書類

次は、自分で作成しなければならない書類の一覧です。

  • 債権差押命令申立書
  • 当事者目録
  • 請求債権目録
  • 差押債権目録
  • 第三債務者に対する陳述催告の申出書

漢字の羅列でテンションが下がりそうですが、裁判所のサイトには、ひな形や記載例がたくさんありますので、それらを利用すれば、意外とスムーズに作れますよ。

差押えに必要な費用

申立手数料として収入印紙で4000円が必要です。

後は、裁判所は債権者や債務者、第三債務者に書類を郵送しますので、その分の切手を予め納める必要があります。

この金額については裁判所ごとに決められていますので、事前に確認が必要です。

なお、手数料の4000円とか予納する郵便切手についても、差押えに必要な費用ということで、養育費と一緒に差し押さえて回収できます。

管轄裁判所

債務者が、現在、実際に住んでいる住所地を管轄する地方裁判所に書類を提出して、申立を行います。

差し押さえられる給料の範囲

給料というのは、生活のためになくてはならないものですから、その全額を差し押さえることはできません。

原則として、差し押さえられるのは、手取額の4分の1です。

なので、養育費の額が毎月8万円で、手取額が24万円だと、毎月2万円足りない計算になりますが、これは諦めるしか仕方がありません。

なお、手取額が44万円を超える場合は、そこから33万円を差し引いた額を差し押さえられますので、例えば、手取りで50万円あれば、17万円も差し押さえられます。

やっぱり別れた後も、持つべき者は高給取りの夫です。

給料差押えの流れ

給料の差押えは、以下のような流れで行われます。

差押命令の発令と送達

苦労して申立書を作って、裁判所に何とか受理してもらえたら、後は差押命令が発令されるのを待つだけです。

この間は特に何もする必要はなくて、裁判所から債務者と第三債務者に対して、差押命令が発令されたよという通知が行きます。

そして、債権者には、債務者へはいつ通知が届いたのかを知らせる書類が届きます。

陳述書の提出

第三債務者からは、債務者の月給はこれだけで、ボーナスはこれだけあるよというお知らせが裁判所に届き、裁判所から同様のものが債権者に送られます。

第三債務者との打合せと取立

おそらくちょっと意外に感じられると思うのがここです。

第三債務者から、差し押さえた給料を支払ってもらうわけですが、この時、裁判所が間に入るのではなく、債権者と第三債務者が打合せをして、直接支払ってもらいます。

普通、振り込みなので、口座を伝えたりという事務的な手続が必要です。

取立届の提出

第三債務者から差し押さえた分の給料を受け取った債権者は、裁判所に対し、いくらいくら取り立てましたという報告書を出さなければなりません。

給料差押えの実務

実務上よくあるのは、初回の差押え後に、債務者との間で和解が成立して、差押命令を取り下げるというケースです。

債務者としては、いつまでも給料を差し押さえられたままというのは、会社の手前、避けたいというのもあるのでしょう。

また、会社が非協力的ということもあります。

会社に対して陳述催告の申出をして、債務者の給料がどれぐらいあるのかを教えてくれと頼んでいるのに、全く無視するところも少なくありませんし、実際には働いているのに、そんな従業員は雇っていないとしらを切る会社もあるかもしれません。

全てがスムーズに行くというわけではありませんが、条件さえそろっていれば、後は手続だけの問題ですので、専門家に依頼することなく、自分で行うことも可能です。